実績

産学共同研究施設 | 光学機器メーカー

すべて決められたRFPを、なぜ解体したのか

大手光学機器メーカーと大学が共同で新設する、研究者向けの最先端顕微鏡施設。そのWebサイト制作コンペティションでは、掲載情報からページ構成まで、詳細なRFP(提案依頼書)が用意されていました。

一見、あとはデザインをまとめれば完成する案件ですが、そのRFPを読み込むほど、別の問題が見えてきました。

詳細な構成まで指定されたデザインコンペティション

大手光学機器メーカーが大学と共同で新設する、研究者向け最先端顕微鏡施設。開所に合わせたWebサイト制作に向けコンペティションが行われ、その提案協力を代理店から依頼されました。

そのRFPには、掲載する情報からサイトの構成まで事細かに示されていました。各ページは「タブ」として分類され、その中に置く見出しや内容、機材ごとの料金、利用者登録、機器予約の仕組みまで定義は済んでいる状態です。

明確な要件としてコンペ参加者が提案を求められていたのは、その構造、構成に沿ったレイアウトデザイン案。一見、指定された内容をどう見やすく整理し、デザインとして成立させるかが勝負のポイントに見えました。

細部まで決められているのに、施設の全容は見えてこない

RFPは細部まで作り込まれていましたが、読み進めても、この施設がどのような役割を持ち、研究者にどう利用してほしい場所なのかが見えてきません。

HOME内の見出しとして「ミッションの宣言」が置かれていましたが、初めて施設を知った研究者がまず必要とするのは、抽象的な理念ではありません。

どのような研究を支援する場所で、自分も利用できる施設なのか。どのような機材があり、何ができるのか。そこが分からなければ、機材、料金、予約といった情報を見ても、自分との関係を判断できません。

また大手光学機器メーカーと大学が共同で設ける施設でありながら、研究支援に対する企業としての意図や、施設の存在意義も、RFPでは示されていません。

情報は細かく指定されているのに、なぜこの施設をつくり、誰にどう利用してほしいのかが伝わらない。サイトの枠組みというより、施設側が掲載すべき情報をまとめた事務的な仕様書に見えました。

調査を進めると、他大学に設置された同種施設のサイトと、RFPのページ構成や掲載項目が偶然とは考えにくいほど一致していました。このサイトを下敷きにRFPの構成が作られたと考えると、作成者の意図が読み取れないまま、細部だけが決められていた理由にも合点がいきます。

参照元と考えられるサイトでは、研究者自身が施設の運営と情報発信の主体でした。サイトの使い勝手には粗さがあっても、自分たちが何を研究し、施設をどう活かすのかという考えが、掲載内容や見せ方を支えていました。

同じ骨格を移しても、それを成立させていた文脈まで移るわけではありません。本件のRFPにはページと項目だけが残り、この施設を誰にどう利用してほしいのかという軸が欠けた状態でした。

「RFPどおりにはしない」

この前提からレイアウトを整えるだけでは、研究者が施設の役割を理解し、自分の研究に使えるかを判断し、利用へ進むサイトにはならないと判断しました。

我々はRFPに示された掲載項目は活用する一方、構成と個別ページの枠組みは採用しない方針を取ることにしました。コンペの窓口となった代理店の担当者から、「なぜRFPどおりの構成にしないのか」と強く問われました。要求仕様から外れる提案は、それだけで評価を落とす可能性があるからです

それでも、RFPへの準拠よりも、施設を利用する研究者にとっての分かりやすさと使いやすさを優先し、要求仕様から外れるリスクを承知した上で、方針は変えずサイト全体を我々が最適と考える構造で提案しました。

また、もう一つ、見直した点があります。RFPから抜け落ちていた企業側の意図です。

本件は、大手光学機器メーカーが大学と共同で研究支援施設を設ける取り組みなのにもかかわらず、RFPでは企業としてこの施設を設ける意味がサイト全体のあり方として明示されず、「ミッションの宣言」という見出しだけに収められていました。

高価な先端機器を研究者に開き、研究や教育を支援することは、企業にとって明確なCSR活動でもあります。そこで私たちは、その意義をサイト全体の要件に加え、研究者が施設を理解し、利用しやすいインターフェイスそのものによって、企業の社会貢献の姿勢を示すことを提案しました。

プレゼンテーションにおいて、この位置づけの時点でエンドクライアントから「まったくその通り」と認められ、そこからは提案の場でありながら、実制作に近い協議の場となりました。

RFPの掲載要素を、利用者のための案内へ

RFPから要件として残したのは、サイトに掲載する個々の情報です。指定されていたタブ構成やページの分け方は引き継がず、いったん見出しレベルのコンテンツ要素まで分解しました。

それらを分類し直す基準にしたのは、情報の種類ではなく、研究者が施設を利用するまでの検討過程です。

まず、この施設がどのような場所で、自分も利用できるのかを知る。次に、自分の研究に必要な機材や機能があるかを確かめる。そのうえで、料金や利用条件、サポート態勢を確認し、登録と予約へ進む。利用を検討する人が必要とする情報を、その関心と段階に沿ってつなぎ直しました。

施設側が持つ情報を項目ごとに並べれば、施設の仕様を示すスペックシートにはなります。しかし、利用者のための案内として必要なのは、研究者が何を確認したいかを理解し、次の情報や手続きへ迷わず進める、マニュアルともいえる構成です。

RFPに書かれた内容を減らしたのではなく、施設側の分類枠組みから切り離し、研究者が施設を知り、利用を検討し、実際に使うために情報設計から組み直していきました。

利用者の関心に応じ、五つのカテゴリに再構成

再構成後のサイトは、「施設について」「利用する」「機材紹介」「ギャラリー・リソース」「ニュース・セミナー」の五つに分類しました。それぞれを、利用者が施設に対して持つ異なる関心に対応させています。

「施設について」では、どのような目的で設けられ、誰が利用できる施設なのかを示します。光学機器メーカーと研究施設の歩み、運営に関わるスタッフや研究者、研究室、所在地などもここにまとめ、機材を置いた場所ではなく、研究を支える体制を持った施設として紹介しました。

「利用する」には、利用方法、料金、利用者登録、機器予約、FAQを集約しました。機材の情報を探すページと、利用に必要な手続きを確認するページを分け、施設を使うために必要な条件と手順を一か所で確認できるようにしています。

「機材紹介」では、顕微鏡や各種システム、周辺機器、施設内の設備を整理しました。単に機材名や仕様を並べるのではなく、どのような観察や撮影に使えるのかを把握し、利用する機材を検討できる内容としました。

「ギャラリー・リソース」では、施設の機材で撮影された画像と、論文や研究成果を掲載します。研究者の関心を引く美しい画像を入口に、機材によって何が見えるのかを具体的に示し、その先に実際の研究成果があることまで伝える構成です。

「ニュース・セミナー」には、施設からのお知らせに加え、セミナーや講習会などの情報を置きました。すでに利用を考えている研究者だけでなく、施設や先端機器をまだよく知らない研究者にも、利用を始めるきっかけをつくるためです。

施設の紹介、利用方法、機材、研究成果、継続的な活動を、それぞれ独立した情報として並べるのではなく、施設を理解するために必要な五つの入口として定めました。

情報と手続きを接続し、施設を使うためのインターフェイスに

五つのカテゴリは、それぞれを独立した情報の置き場所として設定したわけではなく、施設を知るごとに研究者の関心が変化する流れに沿って、次に必要となる情報や手続きへ進めるよう相互に接続しました。

施設の概要や利用対象を確認した人は、利用条件や登録方法へ。機材を調べている人は、その機材で撮影された画像や研究成果を確認し、料金や予約へ進む。ギャラリーから関心を持った人は、使用された機材や利用方法を調べられる。それぞれのページを行き止まりにせず、関心が生まれた先に次の情報を置きました。

トップページでも、すべての利用者に同じ順序で情報を読ませるのではなく、施設について知りたい、機材を探したい、利用方法を確認したいといった訪問時点の目的から、必要なカテゴリへ進める構成としました。

こうして、施設の紹介、利用条件や手順を伝えるガイド、登録や機器予約へ進むUIを、一つの流れとしてつなぎました。Web上で情報を探す行為が、そのまま施設を理解し、利用の準備を進める過程になります。

この施設にとってWebサイトは、開所を知らせ、機材を掲載するだけの広報媒体ではありません。研究者が施設を知り、自分の研究に使えるかを確かめ、実際の利用へ進むためのインターフェイスとして設計しました。

このプロジェクトで変えたこと

施設情報を項目ごとに並べたスペックシートから
 → 研究者が利用まで迷わず進めるマニュアルへ

利用者を意識しない構成から
 → 研究者の関心と検討過程を起点にした構成へ

施設設置企業の意図が見えない状態から
 → 研究・教育支援の姿勢がサイト全体から伝わる状態へ

詳細なRFPを完成形とせず、そこに欠けていた施設の目的と利用者の視点を起点に、構成そのものを提案し直したプロジェクトです。

※本記事は、当社が担当した企画設計・実装時点の課題定義と構成内容をもとに作成しています。
公開後の運用・追加改修により、現在の状態とは異なる​場合があります。​