実績

製薬メーカー疾患啓発サイト

正しい情報だけでは届かない患者に向け、共感を起点に理解へ進む道筋をつくる

新しい治療法が登場するタイミングで提案を求められた、患者向けの疾患啓発サイト。正しい情報を届けるだけでなく、患者が自分の悩みを受け止め、医師への問いとして整理するための入口と導線を設計したプロジェクトです。

求められたのは「患者を教育する」サイト

ある外資系製薬会社による、患者向けの疾患啓発プロジェクトのコンペティション。

対象は、主に皮膚に症状が出る、完治が難しく、長期的に付き合う必要がある免疫性疾患の患者でした。新しい治療法が登場するタイミングで、その存在を知ってもらい、受診や医師への相談を促すことが求められていました。

提案依頼書では、この施策は「患者教育プログラム」として定義されていました。

つまり、前提にあったのは、患者は新しい治療法を知らない。だから正しい知識をわかりやすく伝える必要がある。理解すれば、行動につながる、という考え方です。

一見すると、自然なロジックに見えます。
医療情報として正確であることは不可欠であり、専門家監修の信頼できる情報を届けること自体は間違っていません。

ただ、この案件でクライアントが気づいていなかったのは、情報の正しさや専門家による権威付けだけでは、患者がその情報を受け取れる状態にはならないことでした。

患者は、知識より先に「自分の状態」を探している

当時、症状に関する具体的な言葉で検索すると、患者同士の体験談や、日常生活の困りごとの情報共有が多く目に入る状態でした。

一方で、医療機関や製薬会社の疾患啓発サイトは、疾患の定義、原因、治療法など、医師・専門家による正しい説明や学術的に確立した知識を提供していました。

切実な悩みを抱える多くの患者が触れていたのは、専門家による「正しい情報」ではなく、患者同士の共感を軸にした記事でした。

患者は、病名や機序の説明に進む前に、自分の身体に起きていることを、どう受け止めればいいのかを確かめようとしていました。人に見られる症状を、日常生活の中でどう扱えばいいのか。その戸惑いを受け止めてくれる言葉をまず探していたのです。

この疾患の悩みは、身近な友人にも話しやすいものではなく、同じ疾患を持つ人が近くにいなければ、かゆみや見た目への不安、仕事や外出、人との距離の取り方について、実感を共有できる相手はほとんどいません。多くの患者にとって医師と対面した際、病気のことは相談できても、日常生活の中で感じる居心地の悪さや孤独までは、簡単に言葉にできるものではありませんでした。

「このかゆみは、病院に行くほどなのか」
「市販薬で何とかならないか」
「人にうつるものではないのか」
「仕事や外出を、どこまで我慢すればいいのか」

こうした問いに応えないまま、いきなり疾患の定義や治療法を提示されても、自分に関係する情報として素直に受け取れない。

課題は、知識が足りないことだけではありませんでした。患者が医療情報に進む前に、自分の状態や悩みをいったん受け止められる入口が必要でした。

患者自身が受け止められる言葉から始める

従来の疾患啓発サイトは、専門家が疾患を説明し、原因を示し、治療法を紹介する構造がほとんどでした。それは医療情報としては正しいけれど、患者がまだ自分の状態を受け止められていない段階では、距離があります。

そこでこの案件では、知識から入るのではなく、患者の疑問や不安から入る構造にしました。

最初に疾患の説明を置かない。

まず患者が日常の中で感じている違和感、不安、困りごとを拾い上げ、前面に配置。「これは自分のことかもしれない」と感じてもらい、その先で必要な医療情報へ進めるようにしました。切実な患者たちに向け、正しい情報へ進むための入口を大きく開きました。

ここで行ったのは、生活の中にある悩みと、医療として正しい情報をつなぐために、情報を受け取る順序を組み替えることでした。

感情や違和感から入り、共感とともに自分ごととして認識した後で医師監修の知識に接続する。そうすることで、専門的な情報が、ただの説明ではなく、自分の状態を理解し先へ進むための情報として受け取れるようにしました。

共感で終わらせず、知識と理解へ接続

この流れを、サイト全体の設計にも反映しました。

入口には、患者の声をカードとしてリストする独自のフォーマットを置きました。患者の疑問と気持ちの2つのカテゴリーに分け、患者が日常の中で抱えている違和感や不安を、自分に近い言葉から拾えるようにしました。

疑問のカードには短い回答を添え、その中から関連する知識記事へ進めるようにしています。患者の言葉を入口にしながら、必要なところで医師監修の情報へ接続する設計です。

知識コンテンツは、医師監修で教科書的・体系的に整理しました。疾患の基礎、原因、種類と症状、治療法、日常生活のアドバイス、Q&Aなどを、患者が必要に応じて参照できるような構成です。共感の入口から入っても、その先では正確な医療情報が俯瞰的に探せます。

さらに、理解で止まらないように、医師への相談につなげるための仕組みとその導線も全ページに設けました。相談内容を患者自身がまとめ、出力できるフォーマット。症状の困りごと、日常生活の悩み、治療について聞きたいことを通院前に整理できる形にしました。治療に対応できる医療機関検索への導線も用意しています。

患者の悩みを受け止める入口、医師監修の知識、相談の準備、医療機関への接続。これらを別々の情報として置くのではなく、患者が受け取れる順序でつなぐことが、このサイト構造の核心でした。

患者の声という接点を増やし続ける

この構造は、公開時点で完結するサイトではなく、継続的に更新・運用されるサイトとして実装しました。

患者の疑問や気持ちを扱うカードは、ひとつずつ追加・管理できる更新単位として設計しました。疑問と気持ちの2つのカテゴリに分け、さらに症状が出た部位や似た悩みを束ねられるように、任意のタグを複数付けられるようにし、症状や悩みの近さから関連する情報にたどり着ける構造にしています。

短い言葉で自分に近い悩みを見つけるカードと、患者や家族の体験を綴った読み物、医師や薬剤師など患者を支える医療関係者からのメッセージは、それぞれ別のテンプレートとして用意しました。共感を短く拾う入口と、深く追体験する記事では、受け取り方が違うためです。

記事下部に設置する関連記事パーツは共通化しました。カード、読み物、知識記事のそれぞれから、似た疑問や気持ち、関連する知識記事、読み物へ行き来できるようにしています。

一方通行で患者の声から最終的に知識へ誘導する導線を設定するだけでなく、専門家による知識を読んだ後にも、自分と近い悩みや他の患者の経験を見つけられるようにし、共感・実感と専門的知見を編みながら、治療意欲を高め、必要なところで医師への相談準備へ進むことができる構造にしました。

患者の声を固定されたコピーとして置くのではなく、追加し、分類し、知識や相談導線へ接続し続けられる仕組みにする。そうすることで、サイトは静的な疾患説明ではなく、患者の実感を起点に動き続けられる接点になりました。

漠然とした不安を、医師に相談できる問いに変える

このサイトによって変わったのは、患者が医療情報へ向かう前の状態でした。

それまで、患者は日常の中で感じている違和感や不安を、自分の中だけで抱えたまま検索していました。体験談や口コミで自分と同じ悩みを見つけて安心する一方、医療機関や製薬会社の情報には正確な知識がある。その二つのあいだの距離を、患者自身が埋めなければならない状態でした。

本設計では、その距離をサイトの中でつなぎました。患者の疑問や気持ち、患者や家族のストーリー、医療関係者からのメッセージ、医師監修の知識、相談内容を整理するフォーマットを、それぞれ別の情報として置くのではなく、患者が自分の状態と照らしながら行き来できるようにしました。

これにより、漠然とした不安や患者同士の共感に留まっていた悩みを、医師に相談できる問いへ整理できるようにしました。

かゆみや見た目の不安、仕事や外出での困りごと、治療について聞きたいことを、自分の言葉で整理できる。専門的な知識も、病気の説明として一方的に読むのではなく、自分の状態を理解し、次の相談を考えるための情報として受け取れるようになります。

Webの役割は、正しい疾患情報を一方的に掲示する場所から、患者が自分の状態を確かめ、必要な知識を受け取り、医師への相談へ進むための接点へ変わりました。

長期運用の中でも、患者との検索接点を保つ

公開後、このサイトは数年にわたって運用され、原稿執筆時点では疾患名単体のビッグキーワードで検索結果上位に表示される状態になっています。

ただ、疾患名での順位だけが、このサイトの検索接点ではありません。

患者は、最初から疾患名や治療法を整理して検索できるとは限りません。症状の違和感、不安、生活上の困りごとから調べ始め、その過程で、自分の状態や治療について考える言葉にたどり着くこともあります。

このサイトでは、疾患名や医療情報だけを入口にするのではなく、患者が抱える疑問や気持ちを継続的に追加し、そこから医師監修の知識や相談へ進める構造を運用の中でも維持してきました。

疾患名で上位に表示されていることもひとつの成果ですが、それと同時に、患者の実感から医療情報へ進む接点を、公開後も増やしながら運用してきたことに、このサイトの特徴があります。

情報を届けるには、相手が受け取れる状態まで下地を整えること

疾患啓発サイトにおいて、正しい情報は欠かせません。医師監修の知識、疾患についての正確な説明、治療に関する情報がなければ、患者を支えるサイトにはなりません。

ただ、その情報にたどり着く前の患者は、必ずしも病気を体系的に理解しようとしているわけではなく、まず、自分の身体に起きていることをどう受け止めればいいのかを探している。人に話しづらい悩みを抱えたまま、これは病院に行くべきことなのか、治療できることなのか、誰に相談していいのかを確かめようとしています。

その状態の患者に対して、正しい情報を専門家の論理で並べるだけでは届きません。

必要だったのは、患者が自分に近い言葉から入り、他の患者や支える関係者の経験に触れ、医師監修の知識へ進み、最後には相談の準備までできる流れをつくることでした。

この案件で設計したのは、情報量でも、見せ方でもなく、情報が受容される順序です。

正しい情報を届けるためには、正しさだけでは足りない。患者がそれを自分に関係する情報として受け取れる状態をつくること。そこまで含めて設計したことが、この疾患啓発サイトで行ったことでした。

※本記事は、当社が担当した企画設計・実装時点の課題定義と構成内容をもとに作成しています。
公開後の運用・追加改修により、現在の状態とは異なる​場合があります。​